第29話

「もういいじゃん。青先生で。」


「え?」



顔を上げれば、光里が真横に立って私を見下ろしていました。



「いい男だよ?頭も良いし、家柄も申し分なし。なんたってあんたのお兄ちゃんの折り紙付き?」


「……兄は、ちょっと頑固な所がありますから。」



青先生の家は、政治家を多く生んでいる名門で、総理を務めた方もいるほど、長きに渡って日本の政治を支えてきました。


ウチとも長年の付き合いで、青先生のことは小さな頃から知っています。


青先生のお父様からよく、将来嫁に来てくれ、など、軽口を言われることは多くあり、なによりなぜか、兄がその実現を熱望しています。



「まぁね、私もだけどそこはうまくいかないかもね。」


「……。」



政略結婚など、時代錯誤だと感じますが、この世の中でも、私たちの中ではよくあることです。


当人同士はまだしも、結婚というおめでたい結びつきで、会社同士の良い結びつきが生まれる。だからこそ、そんな安易な方法を使おうと考える方はいなくなりません。



「私はね、頼と黒蜜、お似合いだと思うよ。」


「え?」


なんとなく、寂しそうなその声に顔を上げた私に、光里は困ったように笑いました。

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