第6話

頼は、というと、告白の日は毎回、ド緊張している。


ピアノのリサイタル、バイオリンの発表会、パーティーでの挨拶。いわゆる”お嬢様”にとってよくある緊張する瞬間ですら、その辺に買い物に行くような余裕の表情の頼が。


何度もため息を吐いて、何度もトイレに行って、何度も服を直して。


顔を真っ赤にして、挑んでいく。



……毎回、この世の終わりみたいな表情で帰ってくるけどね。



黒蜜もさ、どうせ断るならもうちょい酷い振り方すればいいのに。


この不毛なやり取りをし続けて気まずい思いをするくらいならそうすればいいと思う。


だけどなぁ。



まだ黒蜜の凡人顔をうっとり見ている頼に視線を移す。



普通の、女の子の表情。



白坂頼に、この表情をさせられる黒蜜ってなんとなく、凄い人間なんじゃないかって。そう思ってしまう。


「はぁ、今日もかっこいいです。」



だからもう少し、このままでもいいのかもしれない。



「あ、目が合っちゃいました。」


「うざ。」



恥ずかしがって私に抱き着く頼に、そう言ってやった。



やっぱりもう目を覚ましてほしいかも。

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