第54話
その声に、この場の空気がピンと張り詰めた。
警備の人たちの目つきが鋭くなり、突然現れたその人に警戒の視線を向ける。
お兄さまも普段の緩さがなくなり、眉間に皺を寄せてショーケースに張り付かせていた顔を上げた。
桐生先生は一歩、私の前に出て表情は見えないけど、明らかに警戒している感じ。
「あの、どちら様ですか?」
桐生先生越しに私に笑顔を向けているのは、40代くらいの男性だった。
「申し遅れました。わたくし、こういう者です。」
こめかみを指でかいたその人は、少しくたびれたスーツの内ポケットから名刺入れを出した。それから1枚取り出すと、私に向かって差し出す。
「奥様。」
手に取ろうとした私の動きを、海渡さんが制して。心得たように桐生先生が私の代わりにその名刺を受け取った。
「そんなに警戒しなくても。」
馬鹿にしたように笑い混じりにそう言った彼は、短く切られた髪に指を通した。
少しくたびれているけれど、スーツをキチンと着こなしていて靴も小綺麗にしている。
髭もキチンと剃られているし、普通に考えればサラリーマンに見える。
だけど肩にかけている大きめのバッグが彼をそうだと断定させるのを躊躇わせた。
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