ゴシップ誌の記者

第44話

side 雫



「母さま。」



廊下を歩いていたら、背後からそう声がかけられた。それだけで頬が緩んでしまう。



「旭、移動中?」


「はい。父さまの情報室へ。」


「……そう。」



旭が玲の仕事に同行するようになってもう1週間が経っていた。


あの場所での仕事がどんなものか、少しだけなら想像がつく私でも、とても恐ろしく、闇の深い場所、そう感じるのに。


旭はいつも、楽しそうに出かけていく。



玲の”教え方”は分からないけど、この笑顔はとても不自然で。



思わず頬に手を滑らせた。



「……母さま?」



不思議そうに首を傾げる旭には、陰りは見られない。だけど、少しずつ、少しずつ、何かが近付いている。そんな気がする。



これは母親のカンなのか、それとも……必然を、知っているからか。



心は息苦しさと葛藤、罪悪感でいっぱいで。



母親なのに、私は、



「……頑張ってね。」


この子が壊れてしまうことを、黙認しなければいけない。



「はい。では。」



嬉しそうに笑ってそう言った旭が、蒼と一緒に踵を返す。



笑顔のままでいなければ。あの子が見えなくなるまで。

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