第31話

ため息の行方は、さっきの桐生先生の様子にあった。



瞼を閉じた先生は、まるで現実を拒否しているように見えた。


そのあと目を開いた先生は、いつもの先生だったけど。


その瞳には、いつもの温かさは無くて。



薄暗く、冷たい何かが渦巻いていたように見えた。



桐生先生は、私にとって、いや、この京極の家のみんなにとってなくてはならない人になっていた。



私の主治医ではあるけれど、あの人はこの屋敷に住まい、私たちと関係を持っている。



地平さんとよく話しているのを見かける。


地位を見て交わされる挨拶抜きで蒼羽さんに声をかけられているし、海渡さんと笑い合っている。



そして何より、玲が桐生先生に壁を築かない。



玲と交わされる会話はまるで、友達同士のように対等に見える。



その中で、旭と蒼が先生に興味を示さないけれど……”気にはなっている”ことは分かっている。



旭と蒼は、似ている。


玲と蒼が似ているように。


ただ、旭の方が少し、玲よりも素直じゃない。



だから、桐生先生をあの小さな金色の目が見つめるのは時間の問題だと思っている。

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