第28話

そう思った瞬間、笑っていた俺の顔は一気に強ばった。




人を信じなかった俺が、この人をそこまで信じたいと思うのはなぜなのか?



全く理解できない。



「桐生先生?」


「……こいつは、結局どうしたいんだ。」


呆れかえっている京極玲の表情にはもう、怒りはない。



俺が京極雫に触れたことに怒り、この場に駆けつけたくせにだ。



仕方がない奴、とばかりに俺をあざ笑っている。


この男が俺に向けてくるのは、京極雫が俺に向ける笑顔は……


奥底にくすぶる、確かな情。



それがなんなのか。それは俺にも、きっと京極玲にも分からない。



京極雫だけが、その答えを知っている。




嫌な気分だった。



俺は、大切な場所を作れるような人間じゃない。作りたいとも思っていなかったはずだ。



この場の和やかな雰囲気は俺を追い詰め、不快にさせるだけだ。



そのはずだったのに。



こんなにも、”心地よい”のはなぜだろうか。




湧きあがる恐怖から目を背けたくて、瞼を閉じた。

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