第26話

この人への感情が愛情であったら、どんなに良いか。



そうすれば俺は、あっさりと知子を捨てる事ができる。



そしてこれまで以上にこの人の傍にいればいい。しかしそうならないのは。



「もうそろそろ”言っても”良いですか?」


「っっ、そ、それは駄目です!」



慌てて真っ赤な顔を上げるこの人を、それなりに大事に思っているからだ。



この人の先ほど見せたいじらしい照れも、今顔を熱くしている要因も、寝不足の原因も。



「雫。」


「あ、」



今どこから共なく姿を現したこの、狗神だ。



「れ、玲、どうしたんですか?」



ホッと息を吐いた京極雫は、助かったとばかりに京極玲に近付く。



「いや、お前に会いたくなっただけだ。」



理由も曖昧に、その鋭い視線は俺をまっすぐに射貫いていた。


思わず沸き上がるのは、愉悦。



「雫様、ご指摘してもよろしいですか?」


「えっ、桐生先生っ、それはちょっと……、」


「……なんだ?どうかしたのか?」



俺を睨み続けるこの馬鹿犬が、夜な夜な京極雫を食らうせいで、この人は時折、疲れが目立つ時がある。



事が事だけに、京極雫はあまり話したくないようだが、明らかに原因は狗神のせいだ。

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