第21話

『早速ですが桐生さん、こちらは、いかがですか?』



挨拶もままならず、俺を名指しした知子は、ある資料を俺に手渡し、そう言った。



合コンの席で突然で営業を始めた知子。



勿論、その場の雰囲気が重く残念なものになったのは言うまでもない。



それが面白かったのか、知子という女に興味を持ったのかは分からない。


ただ、この小動物のような見た目の肉食獣がどんな反応を見せるのか、見てみたくなったのは事実だ。


『ここじゃなんですから。行きましょうか。』



その場で俺は、知子をお持ち帰りした。



それは言葉通りの甘く淫靡なものではなく、俺たちが向かった先は病院の俺のデスクだ。



女たちに囲まれ、愛想笑いを続けるくだらない合コンより、知子と仕事の話をした方がマシだと思ったからだ。




話してみれば、知子は人の気分を読むのがとてもうまかった。そしてそれ以上に。



『桐生先生が今興味を持っていただけるものだと自負しております。』


『……。』



知子の持つ知識は、目を見張るものだった。



公的に知り得る俺の経歴から、医者として興味を持っている事柄、そして好物に至るまで、知子は熟知していた。



恐らくそれは、俺以外の医者もだろう。その最大の武器こそ、知子の成績を上げている要因なのだろうから。

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