第20話

歯ブラシを使う機会が極端に少ないから当たり前だろう。


前の職場の時もそうだ。俺の家は別にあった。



そして今は、京極の家に住んでいる。



知子の家には、暇ができれば行く。それは文字通り、”暇”ができればの話だ。



休みの日でも、やることは山ほどある。その山ほどあるくだらないことすらやることがない時だけ俺は、この場所へ来ていた。



「ご飯、食べろよ。」


「……うん、そうしようかな。」



ソファーに座る俺をソワソワと見ているだけの知子に声をかければ、その小動物のような体が大きく跳ね、ぎこちなく笑う。



押し寄せるのは、欲情と……少しの、愛おしさだ。




「知子。」


「ん?」



振り返った知子に笑いかければ、付き合いの長い男に恥ずかしそうに笑い返す。



知子は、前の職場に出入りしていた、製薬会社の社員だった。



このほんわかした雰囲気でノルマが厳しいあの仕事をよくこなせるものだと感心した覚えがある。



しかし俺の予想に反して、知子はとても、優秀な女だった。




きっかけは、合コンだ。よくある出逢いではあるが、合コンなんて基本行かない俺があの日は行ったのだから、何かしら感じるものがあったのだろう。

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