第19話

ーーー、



「おかえりなさい。」


「……ああ。」



それとも、この女の存在のせいか。



俺の鞄を受け取って嬉しそうに笑っている女は、伊藤知子(いとうともこ)という。


華奢で小さな体。常に綺麗にとかされているその髪は艶を出していて、こいつがいつも纏う柔らかな雰囲気は周りの人間の表情を綻ばせる。



知子は、付き合って7年になる俺の女だった。



「お夕食は?」


「食べてきた。」


「……そう。」



知子が寂しそうな表情でチラリと見たのは、食卓の上に用意された2人分の食事。



「……いつも言っているだろう?食べておけって。」


「でも、もしかしたら、と思って……。」



知子は少し、恥ずかしそうにそう言う。


その仕草に、奥ゆかしく尽くすこいつらしいと思わず頬が緩む。


俺の前の勤務先の近くにある1LDKのこの部屋を見渡せば分かるが、部屋に置いてある物はほぼ、知子の物しかない。



小さなクローゼットには俺の着替えくらいは置いてはいるが、ほとんどが知子だけのものだ。



マグカップなどの食器は2組ずつあるが、歯ブラシは2本ない。



それは、俺の住む家がここじゃないからだ。

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