第18話

side 桐生



「主治医だからですよ。」



そう言った京極雫は、柔らかく微笑んだ。


その笑顔には圧される程の深みがあり、有無を言わせない雰囲気に息を呑む。



あの小娘が。


成長したものだ。思わず苦笑いを零した。



そして同時に伝わってくるのは、信頼。



俺を人として知り、通じたいという思いを感じた。



「何が知りたいんです?」



本来なら、カウンセリングというものは患者のことを聞くことに専念するものだ。



医者が自ら自分のことを話す事はそこに感情を生んでしまい、客観的に患者を見られなくなる恐れがあるからだ。



そんな当たり前のセオリーを俺は無視して、目の前の女性に向き合った。



「そうですねぇ。好きな食べ物はなんですか?」



なぜそうしたのかは分からない。俺が人に歩み寄るなんて。



「……そんなことでいいんですか?」


「桐生先生が答えてくれるとは思っていなかったもので。すみません、質問を用意してませんでした。」



バツが悪そうに紅茶を口に含む京極雫に、何かを感じてしまうなんて、今までの俺にはなかったことだ。




それはこの普通じゃない家族に、異常で、異質な家族に、魅せられてしまったからなのか。

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