第12話

俺はあの日、それを痛感した。


絶対的だった自分の何かが揺らぐとしたら、そこからだと。



雫が見せた偽善、朝陽が見せた愛情、霧が見せた野望と、地平が見せた同情。


あの場にいた全ての人間たちは全て、自分の感情の赴くまま行動していた。


そんな中で。俺だけが、何も持たず。



雫に愚かさを学ばせるためだけに動いていた。



朝陽を見下ろす地平の表情に落胆が見えた時、俺たちの間に本来あったものはあっけなく崩れ去った。



いや、元々なにがあったのかも定かじゃない。



俺の行動の全てを支え、俺を見つめ続けていたはずの地平は。



何者だったのかも、分からなくなった。




俺たちの間にあったものも。



きっとそれは信頼関係じゃない。



当たり前だ。


俺は、地平という人間を、”見た”ことなどないのだから。




ふと、旭の近くに立っている地平へと視線を向けた。



それだけで地平は気付き、俺の命令を受け止めるべく緊張した表情を浮かべる。



興味を失った。



そして同時に。失望した。



俺の傍にはこんな、機械みたいな人間しかいなかったのだと。



「玲。」


「っっ、」



突然傍で俺を優しく呼んだ女は、やはり優しい目で俺を見下ろしていた。

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