第53話

受け取るわけがない。だけどこれは、受け取らなくちゃいけないもの。



「お義父様(おとうさま)が、こちらを使いなさいって。頼まれたのよ。」


「……、」


そして、お義父様の名前を出した途端、幸樹の感情はすべて、心の奥に沈んでしまう。心が、拒否を示すから。


だけど反して、体は素直に動いて。



「”古い”ものを、渡して?」


「……チッ、」



だけど”芽依”の気配が動くと、幸樹の目に光が灯る。


ほんと、気に入らない。



「いらないでしょ?芽依は過去。貴方とはもう、関係のない人間よ。」


「っっ、」


幸樹の悲しそうな表情、苦しそうで、やるせない感じで。感情をあまりみせない幸樹が、ここまで人間らしくなる。



ほんとに、いやでたまらない。



芽依の存在、そのものが。



幸樹の黒いスマホ。それは芽依との歴史。



「……解約しておくわ。」


そして、芽依との唯一のつながり。



幸樹の視線は、スマホに。ばかばかしいわよね。あんな裏切り方しておいて、連絡なんてくるはずないじゃない?



だけどこの甘さが、この男の可愛いところ。私には、ないところ。



だから私は、この男が好き。

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