第52話

だけど、おあいにく様。私はもう、芽依の”付属”じゃない。



「ごめんなさいね。私が今日から、ここの姫になるのよ。」


「……は?」



私は、芽依の後ろにいるような女じゃない。常に私が主役。それが当たり前の人間なの。


芽依を裏切った罪悪感なんてあるわけがない。私の婚約者と芽依が先に付き合ってたとしてもそれは、私が悪いわけじゃないから。


返してもらうのは当たり前。芽依はただの恋だけど、私はこれから、幸樹と愛し合うんだから。


「……何してる。」



静まり返った場内、私の後ろから現れたのは。


「幸樹さん!なんか、変な女が、」



私の、男。



「……麻世、なんで入ってきてる。」


振り返ると、心底いやそうな顔で幸樹は私を見ている。


いつも、こんな顔。


私を抱きしめる時も、キスをした時も……初めて抱いてくれた時も。



いつも幸樹の眼には、私は映っていない。



いつも幸樹が見ているのは、芽依で。



芽依以外は、見えていない。



「これ。届けに来たの。」



幸樹に差し出したのは、スマホ。幸樹のお父様に頼んで契約してもらった、最新型。



「電話帳は移してあるわ。古い物を渡して。」

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