第41話

「えと、お兄さん?」



とりあえず運転席のそいつが気になるらしい芽依は、首を引っ込めて俺にひそひそ声で聞いてくる。


「あ、申し遅れました。私は理人さんの……ああ、ええ、叔父、です。」


「「……。」」



どう名乗るか分からなかったらしい。とりあえずついて来るなら用意しとけよと呆れた。俺と夏樹の沈黙に開き直った視線で返したそいつは、運転席のシート越しに芽依に向かって手を差し出した。



「よろしく、姫山安里(ひめやまあさと)と申します。」


「……はぁ、よろ、しくです。」



気まずそうな顔で、芽依は手を握り返した。


「「……。」」


「「……。」」


「………あの。」



しばらく、そのままで。芽依がなんとか引きはがそうにも、姫山は手を放そうとはしない。



貼り付けたような笑顔の奥、芽依の手を放さない姫山は、芽依の顔を覗き込むようにぐっと顔を寄せた。



「おい。」


このままにしておくつもりもないが。



芽依を引き寄せ、姫山の手を叩いた。驚いたように離れた姫山は、その表情をゆっくりと変化させる。



相変わらずムカつく、なにかを企んだ表情にだ。



「あ、あの、」


「あ?」



俺の胸を押す弱弱しい力を感じて見下ろせば。



「は、放して、くれない?」


「……。」



胸に抱いた芽依が、顔を真っ赤にして困ったように笑っていた。

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