第40話
「……帰るぞ。」
涙を流すだけの芽依を抱き上げ、ゆっくりと進む。落とすわけにはいかない。この女は、俺の……
「若。」
「……若言うな。俺は違う。」
運転席の横に立つそいつは、着崩したスーツの胸元を掃うように撫で、口にたばこをくわえたまま肩をすくめた。
そのリアクションに不快さが増すが、俺は運転ができないから仕方がない。
急いでいたとはいえ、こいつに運転を任せたのが間違いだったらしい。
「鈴森、どうしました?」
助手席から出てきた夏樹が訝し気に問いかける。理由は知っているのだろうが、芽依の様子とは結び付かないらしい。
「家まで送る。」
苦笑いでそれだけを返した俺が答えるつもりがないのを察したらしい夏樹は、俺が乗れるように無言で後ろのドアを開けた。
なんとか芽依を車のシートに下ろし、窓の外を見つめる芽依に口を開いた。
「芽依、送るから。」
「……ん?」
振り向いた芽依の目が俺を見上げる。その潤んだ目で見上げられるだけで、自分の胸が疼くのを感じ、苦笑するしかない。
「家。送るから。」
「……ああ、家。家?あ、家?」
車に乗っている自分の状況にようやく気付いたらしい芽依がテンパりだしたらしい。俺がさっきここまで抱いてきたと言えばさらに混乱を極めそうだ。
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