第29話

《だって友達、こいつしかいないじゃん胸ぐらい貸して貰おうよ。》

「……。」



黙り込む芽依はもう、気付いている。



姫になったせいでクラスメイトとは距離を取って過ごし、親友であるはずの、”麻世ちゃん”には裏切られた。


彼氏だったはずの男は麻世ちゃんの婚約者で。この男と別れた時点で、Darkのメンバーとの絆はあっさりと断ち切られる。



残ったのは、ワタシと。


あの、感じの悪い2人だけ。



《この時間一人で帰るつもり?私は嫌よ。》

「……。」


分かってるでしょ?芽依。


この時間、こんな暗いふ頭を通って、その先にある誰も通らないような道路を進んで、繁華街まで行って。お金もないのに、タクシーに乗らなくちゃいけない。


それ以上に嫌なのは、目の前の男に送られることだ。



「でも、理人くんだって迎えになんか、」

《来る。自転車使ってでもね。》



”芽依”が、混乱する。同じ高校生のあいつが、そんなわけないって。


でも分かってるでしょ?私の考えてること。



あいつは多分、普通の奴じゃない。少なくとも、教室ではしゃいでる男子たちよりはね。



そして、芽依?


《あんたがワタシ以外で信じてるのは、あの男だけでしょ?》

「……。」

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