第27話

「っっ、」


分かってる。今、言いたかったんだと思う。


《さようなら。》


って。


だけど、どうしても言えなかった。


だからワタシが言った。


目を見開いたまま固まっている篠田幸樹を前に、ゆっくりと感じる。



芽依が、ゆっくりと心を閉ざしている。それはやがて、すべてをシャットダウンして。


”芽依”が誰かに抱きしめられるまで、きっとこの子は、人に笑いかけることはないだろう。


《さて。》


着ているパーカーのポケットから落ちそうなスマホ。なんでこんな勝負の日にパーカーなんか着てくるのか。


しかもポケットがスマホの大きさと一致してないし。


さすがのワタシも、今日という”特別な日”は覚悟してたわけ。だからこそ、こんな”勝負服”、ありえない。



だけど芽依は、暴走の日は何が起こるか分からないから、なんてまるで自分が幹部かのような立派な警戒心を発揮した。


だから、姫である自分もいつでも走れるように、ジャージ、にジーパンなんだって。



どうせこんなクソみたいな展開になるならもう格好なんてどうでもいいけど。



これから電話する奴のリアクションを考えると、そこそこメンドイし。

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