第26話

side モリ



《離して。》


「っっ、芽依?」



篠田幸樹の胸を強く押せば、目を見開いてこちらを見てきた。


ああ、胸が苦しい。心が壊れそうだ。


頬を濡らす涙のせいで目は痛いし、喉も痛い。



《ちょっと芽依、泣かないでくれない?》

「無理だよモリ。私、」



壊れそうなその声に、思わず自分の顔が苦し気に歪む。



《はぁ、》

「……。」



泣いているだけの芽依はもう、心を閉ざしてしまった。



《ごめんね、抱きしめてやれなくて。》

「うん。」



ワタシたちは、同じ体。心も、同じ。性格は少し違うけど、根本は一緒。


芽依はワタシのことをよく分かってるし、芽依のことはワタシがよく分かってる。


なのに、私たちにはどうしても無理なことがある。



こうして、傷ついた時、本当の友達なら、家族なら、抱きしめて慰めてあげるだろう。


だけどワタシには、それができない。



「いいの。そばにいてくれるでしょ?モリ。」

《それは、まかしといて。》



ニヤリと口角を上げれば、芽依は次の瞬間、困ったように笑った。



《捨てていい?》


その言葉に、芽依は黙ったまま。だけど。



「うん。すべて。」



決心したように上げた視線の先の、篠田幸樹にそう言った。

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