第24話

「分かってる。今日までだ。」


「そう、ならいいけど。これ以上はもう私、我慢しないから。」



貴方から私へ、名前を送る。



【mei】と【kouki】刻まれた名前は、重なることで一つの太いリングになる。



だけど、ああ、少しずつだけど、感じていたのは。



「……ああ。大丈夫だ。」


「……ねぇ、言って?私が安心する言葉。」



このことだったんだと、



「……愛してるよ。麻世。」


「私も。幸樹、愛してる。」



そう思った。




それでも私は、この場にいたかった。温かい場所、そう信じて疑わなかったから。



ゆっくりと立ち上がって、灰皿を取れば、抱き合う2人が、灰皿越しに見えた。



「ねぇ。」


「「っっ、」」



抱き合ったまま、上を見る2人。目をまん丸に開いて、顔が強張って。


吸い込まれそうな夜の闇。2人の顔は、倉庫の街頭でようやく見える程度。


幸樹くんのたばこが、地面に落ちてる。


この灰皿、さすがに落として使ってもらうわけにはいかないな。なんて。



「ごめん、”モリ”。私、限界かな。」

《……お疲れさま、芽依。》

「ん。」



ゆっくりと、私の頬に涙が伝う。


「芽依っ、」


「っっ、」



はじかれたように抱き合っていた2人の体が離れて。幸樹くんが麻世ちゃんを置いて倉庫の中へと入っていく。

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