第23話

「危ないなぁ。」



胸の鼓動は、どんどんどんどん、強くなっていく。


《大丈夫?》

「うん、大丈夫。」



壊れそうなほどドキドキしていても、なぜか気にならない。


幸せ。そう思うから。



「好きな人が忘れた灰皿をさ、仕方ないなって言いながら私が回収するの。なんか幸せだよね。」

《さぁ、人それぞれなんじゃない?》


「もう。一応、”モリ”の彼氏でもあるよ?」

《私はタイプじゃないし。》



クスリと笑って、バルコニーに足を踏み出した、瞬間。




「いつ言うの?」



聞き覚えのある、そしてここで聞こえるはずのない声が聞こえた。



そっとバルコニーから下を見れば、2人の頭が見える。



「…すぐに言う。」


たばこを吸う幸樹くんと、


「でも、明日なのよ?」


麻世、ちゃんだ。




「っっ、」


咄嗟に、しゃがんだ私がぶつかったせいか、灰皿が少しだけ動いた。


それをなんとか抑えて。その手の指にあるそれを見て、私の心臓は大きく軋む。




「分かってる。」


「分かってないわ。私たちの婚約発表は明日なのよ?」



姫である象徴は、その時の総長でさまざまだった。だけどみんな、それに文字を刻む。

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