第9話

俺は自分を隠すのがうまい。


しかしそんな俺以上に、このバカ女が一番、自分を隠すのがうまい。



うまくならなくていいことだ。俺には事情があるが、こいつ自身は普通の女らしく、毎日を能天気に過ごす権利がある。



「いや、姫になった時点でそれはないか。」


「え?」


「いや、別に。お前の思い込みのせいで俺は傷ついたわけだから、アイスでもおごってもらおうかなと思っただけだ。」


「え”、私お金ないよ。」



アイスくらいでめちゃくちゃ焦ってる金欠女は、少しずつ、少しずつ、この学校での居場所を狭めていた。



「分かった。金ができたらおごれ。」


「だから、なんでおごる前提になってんの?」



口を尖らせる芽依が歩き出したのを待って、背後にいるそいつを振り返った。



一瞬目を見開いたそいつは、俺が口角を上げると強く睨み付けてきた。



「ばーか。」


「は?理人くん、ちょっと酷くない?」



そいつに言ったはずのそれは、芽依に間違ってぶつかったらしい。



「まぁ、お前馬鹿だし、間違いじゃないよな。」


「……私なりに努力はしてます。」

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