第8話

「……聞きたいんだけど、」


「ん?」



ほら、こうして、ちっせー唇を尖らせて、ウンウン唸ってやがる。



「なんで麻世ちゃんに怒ってるの?」



自分が平気だと見せようと必死なあまり、うっかり普段なら聞かない質問をしてしまう。


こいつ、見た目だけなら確実に学校一狙えるのに。少しばかり、馬鹿なもんだから。ほら、こうして、物好きしかよってこない。


肩より長いくらいの焦げ茶色の髪はサラサラで、指を通すと気持ちよさそうだ。根岸色の瞳はいつもキラキラしていて、見つめ返した者を引き込む。


思わずでも見とれるわけにもいかず、芽依から視線を外した。



「……別に、怒ってない。」


あの女が気にくわないだけ、そう言ってもこいつが信じるわけもない。


「だって、麻世ちゃんに婚約者さんができた頃から更に………ハッ、」


「違う。断じて違う。」



またまたぁ、とばかりにニヤリと笑う芽依にげんこつを喰らわしたくなった。



ふと、視線を感じて少しだけ背後に視線を向けた。こいつ自身は気付いてないが、芽依を常に見ている奴がいた。


「……。」


しかも、ご丁寧にも副総長様直々にだ。



上手い具合に芽依の視界に入らないよう、距離を保って付いてきているが。


「理人くん、同情する。不毛な恋愛して捻くれ度が増してるんだね。」


「……お前はマジで、一言余計だな。」


しかし不毛という言葉にドキリとしたのは事実だった。



それは今の俺の感情のことじゃなく、芽依そのものを指しているように感じたからだ。



「お前の場合は誤解じゃない。思い込みだ。」


「え、違うの?」

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