第56話

「……はい。できた。」


「消しました!消しましたんで!」



一連の動作を見つめていた雀が目を細めて。彼氏の胸倉を掴んだまま、彼女に近付いた。



息を呑んでそれを見ている彼女に顔を近付けた雀の後頭部を私は地面に座り込んだまま見ているだけだけど、いやにピリついた空気だけは感じる。



「ごめんね。」


「い、いえっ私が悪いしっ。」



だけど、その空気に反した優しい声に、彼女が頬を染める。それも一瞬だったけど。



「だよね。許可なく人が写りこんでるのにSNSに上げるとかありえないし。そんなの馬鹿でも分かるよね。最悪訴えられちゃうしね。」


「っっ、」



彼氏を開放した雀は、棘全開にそう言いながら私のところにきて、そっと腕を引っ張って立たせてくれる。



そして……、



「で、悪いことしたんなら相手に謝るよね、普通。」



にっこり笑顔でそう言った。



雀を見上げると、まっすぐにカップルを見ている。彼女たちに視線を戻すと、茫然としていた2人は気が付いたように頭を下げた。



「すみませんっ。」


「ごめんなさい!」




そして私が何かを言う暇もなく、逃げるように走って行ってしまう。



物凄い速さで走って行く2人を私はただ見ていることしかできないのは、訳の分からない展開にそうせざるを得ないからだった。


ただ言えるのは、雀は怒らせちゃいけない。それだけ。

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