第51話

魚の香ばしい匂いが食欲をくすぐる。雀も嬉しそうにそれを見ていて、それを見るだけでさっきまでの悩みや不安が少しだけ紛れてくれた。



それなのに。



「写真撮ろ写真!ディフションに上げよー!」


「っっ、」



女性が放ったその言葉に、私の体が一気に強張った。



「はい、ポーズ!」


「釣り竿とか持って。」


「魚釣ったとことかも撮りたいよねー。」




次々と聞こえてくるシャッター音が耳に届いて、私をどんどん追い詰めていく。



【ディフション】10代の女の子を中心に広がっているSNSだ。拡散という意味のそれは、写真や動画を投稿できて、全世界の人と繋がれる。



特に10代に人気があって、自分の投稿が人気になるとクラスでも人気者になれるほど。



それだけ私たちの年代への、影響力はとても大きい。



「あっ、なんか奥の人が写ったんだけど!でも魚焼いてる感じとか出てていいカンジ!」



だからこそ、気をつけないといけない。影響力が大きいということは、良い事だけじゃなくて、悪い事もあるということだ。




「消して!」


「え?」



思わず叫んでいた。張り裂けそうなほど心臓が痛くて、冷や汗が背中を伝う。早く消してもらわないと……焦る気持ちを抑えることができない。

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