第47話
「ありがとね、連れてきてくれて。」
「っっ、」
冬陽の笑みには少しだけ儚さが見えた。胸も痛むのになぜだろう。こいつを見ていると邪心を持った自分も同時に顔を出すからだろうか。
ごくり。俺の喉が鳴る。
「ど、どういたしまして。」
「ふふっ、なにそれ。」
邪な心を知られたくなくて外した視線。俺のリアクションが面白かったのか、冬陽が笑みを深めた。
冬陽の笑顔を見ていると温かい気持ちになる。それは愛情だとか、そういう具体的なものじゃない。
冬陽とこの場にいる、それだけで十分なほど今が充実しているとでも言おうか。
結局こんな小さなことで幸せを感じちまっているくらいには、俺は冬陽に夢中らしい。
少しだけ、冬陽も俺に心を砕いてくれていると、思う。いや、夜同じベッドの端々で寝れるくらいには好かれてるとは思うが。いや、そう思いたいのかもしれない、が。
それなら俺は、少しだけ踏み込もう。
「冬陽、俺、お前のことを色々知りたい。」
「え?」
パチパチと、炭が網の下で弾けて存在を主張する。冬陽の強張った笑顔を見て、自分が失言をしたのだと十分自覚している。
しかし。
「家出の原因とか、そんなのはいいんだ。ただ俺は冬陽、お前がどんな女なのかを知りたいんだ。」
「っっ、」
俺が冬陽のことを”知っている”のは、容姿とあの光景。
寒空の下、お前が涙している、あの光景だけだ。
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