第41話

私って結構、チョロいらしい。


あんなに苦しくて、あんなに最悪な恋愛をしたというのに。見た目がかっこよくて、良い人なだけでこんなにも心動かされてる。




安心した。自分もまだ恋愛ができるんじゃないかって思ったから。だけど同時に、それを大きく凌ぐ、自分への嫌悪感も感じた。



「っっ、」


「冬陽、大丈夫か?」


「う、ん。」


「もう少しだ。」


「……ん。」



雀の大きな手が私の頭を撫でるから、涙がこみ上げてきた。今だけは、車酔いしている自分に感謝だ。



なぜか雀には、最低な自分を知られたくなかったから。



ゆっくりと目を閉じて、落ち着いた音楽と車の音だけをただ聞いていた。



---、




「冬陽おはよ。行けそうか?」


「……ん?」




静かな車内。音楽はもう消えていて、エンジン音も聞こえない。雀の声だけが穏やかに響いて、自分が眠っていたらしいことを教えてくれる。



「ここは?」


「ん?釣り場。」




目をこすりながら見渡していると、なかなか聞きなれないワードが返ってきた。



「釣り?」


「ああ。」



車はただの空き地に無造作に停められていて、雪の混じる草木の間から下に下りれるらしい獣道が見える。

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