第39話

「しゃ、行くぞ。」


「うん。」




エンジンをかければ、ものすごい勢いで空調から風が飛び出てくる。ずいぶん下がった車内の温度は少しずつ温まってはいっているが、まだ吐く息は白い。



「揺れるからな。遠くを見とけよ。」


「あーそれ、よく言う奴だよね。」



冬陽がクスリと笑って。そのくせして全然窓の方を見ようとはしない。


運転しながらで冬陽の方を見れないが、横目でなんとなく、冬陽が俺の方をジッと見つめているような気がする。



願望か?はたまた夢か?



「俺ってそんなにイケメンか?」


「っっ、」



だから、気付いてる余裕の男風を装ってそう聞いてみたが……



「まぁ、確かに、イケメン、かも。」


「っっ、」



思わぬところで突然、腹に一発銃弾を食らった。



「っっ、私がっ、とかじゃなくてっ、世間一般で言うところの平均?よりは上っていうか……うん。」


「そ、そか。」


「うん、そう。平均よりだいぶ上だけど。」


「……。」


「ちがくてっ、あれ、なんだこれ?」




大混乱らしい冬陽が、顔を隠すように毛布に潜ったっぽいのを恐ろしく見たい。



自分が運転しててこんなに歯がゆい思いをしたことは、後にも先にもないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る