第37話

side 雀



『好き。』




自分に言われたような気がして、女みたいにときめいたとは死んでも言えそうにない。



車酔いしているせいか、少し息の粗い冬陽が涙目で……そして切なそうに笑う。俺の理性を試しているのかと疑ってしまいそうになるほどだ。



そんな邪心を見破られるわけにいかず、視線を逸らすことでしか誤魔化せない自分の阿保さに呆れる。



デートだと言って連れ出したはいいが、しょっぱな女に車酔いさせるなんて。



本当にこれがデートなら完全に躓いてる。



冬陽が車酔いするなんてリサーチ不足だった。



「雀。」


「ん?」



呟くように冬陽が俺の名前を呼ぶ。それだけで舞い上がるほど嬉しい俺は、名前呼びを強要したくせにそれに慣れることはないんだろうな。



「もう、大丈夫。」


「……ほんとか?」



コートごと自分を抱きしめるようにシートに身体を預けている冬陽が、小さく頷いた。



身体が少し震えているのに気付いて、窓をそっと閉める。それでも車内はまだ寒くて。


バックシートにある毛布を掛けてやった。



「戻ってもいいぞ?」


「ううん。」



毛布に嬉しそうに埋もれる冬陽が、俺をチラリと見上げる。その何か言いたげな表情に首を傾げた。

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