第36話

「わるい。ちょっとここは道が悪いんだ。考えが足りなかったな。」



雀の優しい声が、後ろから聞こえる。


だけど、顔を見られたくなくて。俯いたまま頭を振った。



雀は悪くない。私が勝手にグルグル考えて、こうなってしまったんだから、自業自得だもん。



「少し寒いけど、開けるぞ。」



雀の声を合図に、目の前の窓が開く。車内の温かい空気を冷たい風が一気に台無しにした。



だけど、正直。



「気持ちいい。」


「だろ?車酔いしてる時って意外と冷たい方がいいんだよな。」



雀の声は、少しハスキーで。吹き込んでくる冷たい空気と相まって、私の気分を良くしてくれる。



背後でゴソゴソする音が聞こえる。気になっても気分が悪くて、そちらを向くことができない。



するとなにかの機械音が鳴って、車内に穏やかな音楽が流れだす。



あ、この曲、最近ヒットしてるバイオリニストの曲だ。


確か有名な小説家が好きだってテレビで言って、昔の曲なのに最近またヒットしだしたって聞いたことあるな。



歌詞のないその曲は綺麗な音色で、緩やかで落ち着いた曲調は心地よい。



「この曲、好き。」


「っっ、だろ?」



振り返れば、雀が少し驚いた表情をしていた。一瞬不思議に思ったけど、私の意識はすぐに曲の世界に引き込まれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る