第34話
手から伝わる体温は、男の人にしては少し高いと思う。
だからこそ、私の動揺も激しい。それだけ意識してくれている、そう感じてしまうから。
困る。そう思っていることが大半。
だけどそれだけじゃない自分もいるから、もっと困る。
「どこに、行くの?」
振り払えば簡単なのに、私はそうしなかった。その代わりに行く場所を聞いてみれば、少しだけ驚いた様子の雀が笑う。
その笑顔は、反則なほどに甘くて。
なんだか、心がそわそわと落ち着かなくなる。
「とりあえず、車で行く。」
「遠い?」
「いや、1時間くらいだな。」
「ふふっ、それって遠いじゃん。」
「そうか?」
「うん。田舎時間ってやつかな?」
「あー確かに。都会じゃ1時間は長いか。」
なんとなくな会話をしつつ、笑顔で。こういうのって、凄く久しぶりだと思った。
最近の私はただ毎日を過ごすだけ。笑う強さもなければ、泣くほどプライドがないわけでもなくて。ただ毎日をなんとかのりきろうとしていた。
「コンビニ寄るか?」
「あるの?」
「……お前、馬鹿にしすぎ。」
「ふふ、ごめん。」
ああ、楽しい。そう思ったのは久しぶり。
お礼も面と向かって言えなくて……私を拾ったナンパ男に、心の中で感謝した。
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