第32話
side 冬陽
嫌ではなかった。
私のことを女性と思っている。雀はそんな当たり前のことを言っただけなのに。
それがなぜか、好きと言われているように聞こえて。そして私はそれが、嫌じゃなかった。
雀はこの1週間、私になにも強要していない。
通報するぞと脅してついてくるように言ったあの時以外は、私の意見を尊重してくれていた。
ベッドがひとつしかないから一緒に寝るとか、そういう無茶苦茶なことは言うけど、なんとなくそれは私の体が目当てじゃないと分かっているから。
雀は、私を優しく抱き締めて眠る。
起きて身体を伸ばしたり、肩が凝っているような動作をするのは、かなり気を使っている証拠。
まるで壊れ物を扱うようなそれはきっと疲れると思う。なのに雀は私を抱きしめたまま、毎朝を迎える。
「行こっか。デート。」
「……ただのお出掛けなら、行く。」
だから、そうまでして私を気遣うこの人の真意が知りたくて、そして少しだけ、この人自身のことに興味があって。
思わず、そう返していた。
「マジ?よっしゃ!」
ガッツポーズで無邪気に喜んでみせるこの人といれば、生きる希望ってやつが見つかるかもしれない。そう思う。
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