第31話

「捨てたりしない。最後まで面倒見るつもりだし。」


「……私は、ペットじゃないんだけど。」




冬陽の伏せた瞼が、小刻みに震える。前髪がサラリと揺れて、甘い香りが鼻孔を擽った。



なるべくそっと、冬陽の頭を撫でた。触り心地のいい髪は、俺ん家のシャンプーの匂いがするのを知ってる。



少しずつ冬陽の持ち物全てが、知らない匂いじゃなくなってきていた。




「知ってる。お前は女だよ。」


「え?」



見上げた冬陽の目に、うっすらと涙の膜が張っている。それは驚きに見開かれていて、それに写されている歪んだ人影は、笑っている俺の姿だろう。



「お前は、女だ。ちゃんと。」


「……男じゃない、から、そりゃそうでしょ。」



本当の意味をちゃんと分かっている冬陽が目を逸らしたのを見て、口角を上げた。



意識しろ。俺を。




冬陽の年齢は分からないが、明らかに年下だろう。その辺の女なら、対象にも入れないほど。



しかし冬陽は違う。



「俺は、意識してる。お前は女だ。」



いきなり好きとは言わない。今言ったところでそれは、軽いナンパ男のテンプレにしか聞こえないだろうから。



だけど、この美しい少女に分かってほしい。俺とお前は、男と女。だからこそ、関係も必ず変化するはずだと。

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