第30話

それなのに、なにも聞かず、ただあの部屋を使っていた。



冬陽は自分が使うもの以外、自分の鞄から持ち物を一切出していない。



広いクローゼットもそのまま使っておらず、部屋の物を何一つ使っている形跡もない。



結局、”いつでも出ていけるようにしている。”そういうことなんだろう。



だから今日は、デートと称してこいつに分からせてやろうと思う。



俺が今、冬陽との時間をとても楽しんでいるということを。




「さすがに持ってきた着替えだけじゃ無理があるだろ?」


「え?あー、別に?」


「じゃあ、生理用品とかは?」


「はっ!?」



真っ赤な顔して固まった冬陽は次の瞬間、最大限の軽蔑を顔に浮かべて俺を睨み付けた。



「でも、いるよな?」


「い、いる、けど、」



もごもごと口を尖らせる冬陽が究極に可愛くて、もっといじめたくなるが……女のデリケートな部分にズケズケ入り込んだら殺されかねないからやめておくことにした。



「マジ冗談抜きで、冬陽がここで生活するのに不便だろ?」


「……。」



黙り込む冬陽の考えてることは分かっている。こいつは顔に出やすいらしいからな。

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