第29話

side 雀




冬陽には、家出をした事情があることは分かっていた。



家出をしている以上、なんらかの事情があるのは当たり前だが、冬陽が抱えている”事情”とやらは、とても重いものだと思っている。



そしてその原因が家庭のことではなく、明らかに恋愛絡みであることも、この1週間の冬陽の行動から予想できていた。



冬陽は、俺が”男”を出すと途端に壁を築く。まさにシャットアウトだ。



しかし同じベッドで寝ることは、抵抗はあるものの大人しく付き合ってくれている。夜中ソファーで寝ているのを発見するたびに嫌々なんだろうなと気付かされるが。



だけど、結局俺が眠る冬陽を連れ戻して腕に包んで寝ていても、朝それを指摘することはしない。



冬陽の行動は、自意識過剰とかじゃなくそういう話にならないよう気を付けている、という風に見えた。



俺は冬陽に部屋を与えていた。ベッドはないが、クローゼットと机一式、ノートパソコンは俺のおさがりだが、ある程度生活するのに困らない程度に揃った部屋だ。




そこは、冬陽が来た時のため、俺が用意していた部屋。それを見せた時、当たり前に聞かれるであろうことは何一つ質問されなかった。




あきらかに”誰か”のために用意された部屋。それが自分だと知るわけのない冬陽は、違う誰かを想定したはず。

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