第19話

「あ、ああ、あの、あ、」



それでもなんとか手を離してもらおうとしているのか、冬陽が奇妙な言葉を吐き続けている。



だけど結局強く言えないで、俺に連れられるまま。こいつ、強引さに弱いな。



とりあえずグイグイいけばある程度までは意見が通せそうだとほくそ笑んだ。



俺が家で冬陽になにをするのか、冬陽にはそれが不安で仕方がないんだろう。それはごく当たり前のことだ。



俺と冬陽は初対面。初見の相手に突然脅され、家に連れていかれるんだ。冬陽の心配も当たり前だと思う。



「とりあえず、俺の身の回りの世話、頼んでいい?」


「え?」



駅から30メートルほど行ったところに、うちの郵便受けがある。そこを曲がればすぐ家だ。着く前に、確認しておきたい。


立ち止まって振り返れば、冬陽がキョトンとした顔で俺を見上げてくる。


……いちいちかぶりつきたくなる自分の脆い理性に呆れるしかないけどな。




「料理は?」



俺の質問に、冬陽が小さく首を縦に振った。



「洗濯したことある?」


「はぁ、まぁ、」



「掃除は?」


「自分の部屋、くらいは。」



「じゃぁ、合格。」


「は?」




にっこりと笑いかけて、再び冬陽の手を引いて歩き出した。

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