第55話
「玲様はこういうところがダメなので放っておいてかまいません。すぐに冷静になって慌てて戻ってきますよ。」
微笑む長谷川さんはしかし、と続けてさっき私が見ていた方へと視線を滑らせる。
「あの男が誰か。それを知らないと、”私”が困ります。」
長谷川さんの目の奥が鈍く光った気がして、思わず苦笑いしてしまう。あの人とはみんなが誤解するような関係ではないだけに、これから言うことが”期待”に沿えない事におかしな申し訳なさを感じてしまったから。
「えと、あの人は、」
「雫!」
そう言いかけたところで、玲に呼ばれた。振り返れば、慌てた様子で私の所へと小走りに戻ってくるところで。
「言った通りでしょう?」
笑い交じりにそう言った長谷川さんに頷く。
私の前まできた玲は、バツが悪そうに顔を歪めている。
「ムカついたんだ。」
「え?」
突然、”ちゃんと”理由を言い出した玲は気まずいのか、視線をチラチラと他所へやりながら、再び口を開ける。
「お前が男を見るからだろ。」
まるでお前が悪い、とでも言いたげな言い方は、言葉は確かにそう感じさせるけど……時折見せるその表情は、私の顔色を窺っている。
その矛盾した行動に思わず頬が緩んだ。
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