第54話

「あ、」


「……雫?」



立ち止まった私を不思議に思ったのか、玲が振り返る。そのせいで、私たちを囲んでいた護衛の人たちも必然的に立ち止まってしまって。



そんな私たちに気付いたらしいその人は、伏せていた目を上げた。


それをただ見つめている私に気付くとその目はみるみる大きく、まん丸と見開かれていき、驚きからか口は半開きになっている。



見つめ合う私たち。だけどその人の目はすぐに逸らされ、足早にこの場を去ってしまう。



「……誰だ。」



玲のそんな、低い声が聞こえ、私はその人の背中を見ていた目を上げた。


かち合ったのは、獰猛な金色の目。不愉快そうに私を睨むその目には、嫉妬が見えたような気がして。自分の烏滸がましさを笑った。



そんな私の笑みが気に入らなかったのか、玲はフイ、と顔を逸らしてしまう。



「っっ、」



私に背を向ける玲の背中も、さっきの人の背中も同じなのに。玲に背を向けられただけで、先ほどは何も感じなかった私の心は、軋んだ音を立てる。



「誰ですか?」


ポツンと取り残された私。のはずだったけど、長谷川さんがいた。それに今気付いた私が目を見開いていると、長谷川さんは小さく頷く。

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