第52話

セピア色の風景の中心でただ唯一、”色”のある玲が佇んでいる。



興味津々の学生たちも、好きだった場所も、全てが色を失っていて。



京極の家だけだと思っていたけれどそれは、どこでも起こる現象らしい。



何かの発作のように、私の周りから色が抜け落ちる。困ることはないけれど少し、気味が悪くて……



疲れのせいだと、勝手にそう思っていた。




「来年からにするか?今すぐというのも区切りが悪いだろう?」



そう言う玲は、どこかへと迷いなく進んでいる。玲に手を引かれる私も必然とそこに向かっているわけだけど……


1年だけとはいえ、通ったことのある私が、玲がどこへ進んでいるのか、見当も付かなくて、首を傾げながらも、「そうですね。」と答えるしかなかった。




そして付いたのは、



「あ、お知り合いでしたか?」


「ああ。」



学長室の前。




どうやら、この大学の学長と玲は知り合いらしい。



「親父の友人だ。」



そう言った玲は、私に微笑んで、そんな彼の意図を分かっているように、長谷川さんがドアをノックした。



『はい、どうぞ。』



入学式に聞いただけの学長らしい返答が聞こえた。ドア越しのそれは壇上のマイクを伝って聞いたものよりも少し、低く聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る