第48話

side 玲



「はっ、はぁ、あっ、あ、」



真っ青なその顔は、空気を”食べた”ところで漸く顔色を取り戻していく。



目の前で起こっている事が理解できなくて、俺はただ、呆然と雫を抱きしめていることしかできない。



「ゴホッ、ゴホッ、は、……ああ、」



空気でさえ、上手く飲み込めない雫は、しばらく苦しみ喘いでいた。そんな雫を抱きしめ、背中を擦ってやる。



時折、雫は何かのスイッチが入ったように、キャパオーバーになる。



沖田の家で、落ちこぼれとして育ってきたからか、自分を過小評価しすぎているせいだろう。



婚姻の儀でも、その後の挨拶でも、雫は申し分なく全てを俺の妻として完璧にこなしていたというのにだ。




『姉が全て』


『貴女は姉よりも劣っている』



役立たずとまではいかないまでも、呪文のように姉に勝てないと言われ続けて育った雫には、まだ俺が見えていない闇があるのかもしれない。



特別な家に生まれるということは、人よりも困難の方が多い。得することもあるかもしれないが、京極を初め、俺の家に関わる家の生まれの子供たちには、必ず決められた将来が存在する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る