第46話

「へたくそだな。」


「……はぁ、」




決まってそう言うものだから、変な返事しかできないけど、玲が、嬉しそうだから。



「頑張ります、玲。」


「っっ、」



こうやって”うっかり”きちんと言ってみたり。



こうやって″見ないように″すれば、玲をまっすぐに見れるのに、私の足下に、お腹に、腕に、何かが纏わり付いていて、離れない。


暗く、モヤモヤした何かは、私に絡みついて笑っている。



恐くて。こんな時は、蒼を抱きしめたい。なのに、私と玲の寝室に、蒼は入れないらしい。


蒼を探すように、私の手が動く。それに気付いた玲は、手を取って引き寄せてきた。



勢いに乗って投げ出された私の体は、蒼のもふもふの毛じゃなく、玲の硬い胸板にぶつかる。



少し、鼻を打った私が見上げると、玲はさっきのご機嫌さを消し去ってしまっていた。



代わりに、ここ最近ずっと見せていた不機嫌そうな顔で、私を睨むように見下ろす。



その眼光の鋭さに、自分の体が強ばるのが分かっても、恐さに支配された体は、一向に動かない。



そんな私に、ため息を吐いて。玲は、口をへの字に曲げた。



「蒼より俺に抱きつけよ。」


「え?」



突然出てきた名前に、私の口がポカンと開く。

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