第45話

「それでも俺は、お前を選んだ。」


「え?」



考えていたのは、一瞬。それを知るよしも無い当主様は継ぐ言葉を私に投げかけてくる。


鈍い頭で、多くを考えていた私は、もちろん言葉を拾えなくて。



お姉さまならきっと、この言葉をきちんと受け止めるんだろうなと、苦笑いを零した。



そんな私を見て、眉間に皺を寄せた当主様を見て、それが私の思い過ごしでないことを確信する。



だけど、当主様が次に言った言葉は、私よりもお姉さまの方が良かった、なんて言葉ではなく……



「それなのにお前は、俺を見ていないな。」



そんな、私の困惑を更に深める言葉。



「私が、ですか?」


「ああ。」



首を傾げる私に、当主様は口を尖らせる。このクセも、ここに来て驚いたことの1つだった。



「俺の事を名前で呼ばない。」


「…。」



当主様は、意外と子供のようなことを言う。


これまで、当主様としか呼べなかった私に無理難題を課す。



「玲様?」


「違う。」


ほら、こうやって。



「玲、だ。雫。」


「そ、れはちょっと……、」



無理だと言うと、むつ、と押し黙ってしまう。



「わ、分かりました。」



私が焦ってそう言えば、期待に目を輝かせるものだから。



「……れ、い?」



上手く、口が動かない。

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