第44話

side 雫




「俺たちの関係は、決められたものだ。」


「……はい。」



その言葉は、私には当てはまらない、そう思ってしまう。当主様に申しわけがなくて、俯こうとすれば、当主様は私の顎をその長い指先で止める。



まるで、自分から目を背けることなど許さない、とばかりに。



黄金色とは違う、その目は、ライオンにそっくり。狗を奉る家系なのに不思議。


それとも、犬神というものはこんな目の色をしているんだろうか。



当主様の見た目は、異形でしかなく、怖がる人が多い。



でも私は、実際に目の前にしてみて、思った。



あまりにも美しく、粗すらないその見た目こそ、人々を怖がらせているんじゃないか、と。



私を見つめる当主様は美しく、白い髪、金色の目がその見た目に神秘的なものを感じさせる。



神々しさとは、畏れに繋がるものだ。



穢してはいけないものは、初めから触れることすら躊躇わせる。



ふと、お腹に痛みにも似た疼きを感じた。



私は、この人に……何度も抱かれたんだ。



痛みも、快感も、怖さも、全て覚えている。忘れてしまえればどんなにいいか。




私は、こんな幸せ、知らないから。



夢が崩れた時、この時を思うのが恐い。

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