第43話

気持ちが伴っていないのに俺は、雫を抱いてしまった。それはこいつの心を更に遠ざける行為だ。



当主としてそうしなければいけないが、雫の心も欲しい。そんなの欲張りでしかない。



目を上げ、雫の目をまっすぐに見つめた。


グッとなにかを詰まらせたように俺を見返している雫からは、親しみなんて伝わってこない。


お互い裸で、全てをさらけ出しているというのに、だ。



その距離が、胸を軋ませ、息苦しさを感じさせる。


小さく息を吐いて、ゆっくりと、雫に口付けをした。



すぐに離したそれに、雫は閉じていた目をゆっくりと開ける。それでも、固い表情。それをジッと見つめていて、気が付いた。



雫の目に映る俺の表情は険しく、苛立っている。時折見せるのは、悲しみしかない。



俺は、雫に自分が一度も笑いかけていないことに、漸く気が付いた。




「雫。」


「……はい。」



仕切り直して、なるべく優しく名前を呼べば、雫は恐る恐る返事をして、ぎこちなく見上げてきた。


「っっ、」



雫の見開く目には、微笑む、俺。初めは戸惑っていた雫だが、引きつっていながらも、ぎこちなく笑い返してくれた。

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