第42話

一口飲んで、喉を潤し、二口目を口に含んで、雫の唇を塞いだ。



「んん、ん、」



冷たい水を雫の口内に流し込んでやると、飲みにくいのか時折声を挙げる。喉を動かしなんとか飲み込んだ雫の口端に水が漏れたから、絡めていた舌を解放してそこを舐めた。



もう一度、と唇を塞げば、雫の甘い舌はそれに答える。



少しだけだと思っていたのに気が付けば、また雫が息を切らしていた。



「悪い。」


「ぃ、え、」



苦笑する俺に、雫は困ったようにそう言う。



「あの、当主、さま、」



そう続けるから、俺の眉間に皺が寄った。



「玲。そう呼べ。」


「え?」



目を見開く雫に、理不尽にもイラついてしまう。



「俺はお前の男だ。玲でいい。命令だ。」



そんな言葉を使えば、雫は頷かざるを得ないと分かっているのに。


案の定雫は、表情を硬くして頷いてしまった。



「……そうじゃない。」



首を横に振った俺に、見下ろす雫は困った顔をする。


「そうじゃないんだ。」


雫の胸に額を乗せた。雫からは戸惑いが伝わってくるが、やはりスタートがあれじゃ、こうなっても仕方がないと思う。


そして今、こうしていることは、雫を更に混乱させることになるだろう。

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