第39話

side 玲




俺と雫の温度差ははっきりとしていた。


俺が熱くなるにつれ、雫の身体からは体温が奪われていく。小刻みに震えるその身体は、俺に対しての拒否の表れだろう。



ショックではある。しかし、雫はもう、俺の妻に他ならない。



そして今日、今、俺は雫を抱かなければいけない。これは、京極家当主としての”義務”だった。



しかし義務であるのは、雫だけ。


気持ちのある俺には、義務なわけがない。その温度差が、今の俺たちに決定的な差となって表れていた。




あの【迎の儀】から、雫は全く笑わず、泣かず。ただ不安そうに、俺の隣に座っていた。


時折、縋るような目を向けるのは、犬にで。



【婚姻の儀】ですら、俺を見たのかは怪しい。



俺の妻となったのに、俺を見ない雫は、それでも逃げようとはせず、ただ前を向いていた。


身近であの姉への教育を見てきたからだろうか。妻としての在り方は、間違うことなくやれていたと思う。



その気持ちと意識がどこにあろうともな。



俺に服を脱がされ、愛撫される雫は、まるで人形のようだった。一向に熱を帯びない身体。しかし”当主”を受け入れなければいけないそこは、当たり前のように潤みを帯びる。

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