第37話

side 雫




私の目の前では、時が淡々と過ぎていったようだった。



騒がしく動き回るのは、京極家に仕える人たち。男性も、女性もいたけれど、彼等の行動は一貫として”服従”の姿勢を取っていた。


玲様だけにじゃない。隣に座る、私にもだった。



今起こっているこの時が、私の中では消化しきれなくて。


何日も経っていても、大事な日ですらも。私はただ呆然と、その場にいることしかできないでいた。



そんな私を支えたのは、やっぱり蒼で。



なぜか、私が手入れしていた時よりも綺麗にされて、常に私の横に座っていた。


まるで大丈夫だというかのように、静かに座っている蒼。それを見るだけで、取り乱すことだけはなかった。



「大丈夫か?」


「っっ、」




そんな、優しい声が聞こえ、私は漸く、”現実”を見る。


目の前には、あまり、機嫌の良くなさそうな、当主様が。



その黄みがかった目は険しさを表していて、喉がゴクリと鳴る。



「聞いているか?」


「……は、」



返事をしようと思うのに、恐怖が勝って声が出ない。嫌な汗が額に浮かんで、喉はカラカラに乾いている。



それに。”今”の私たちの恰好が問題だった。

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