第32話
side 雫
思い描いていた儀式は、目の前でしめやかに行われた。
お姉さまほどとは言わないにしろ、何かと大事なイベントで着ていた豪華な着物を身に纏う私の少し後ろには、何故か蒼が座っている。
この家へ蒼が上がることは禁止されていたはずなのに。
母はいつものように怒鳴りつけることもなく、ただただ、呆然と座り込んでいた。
オロオロする私を前に、当主様が立ち上がる。
私の前に膝をついたかと思えば……
「私は、お前を選ぼう。」
先ほど聞いた言葉を言われ、美しい彼はニヤリと笑った。
その表情はキラキラと輝いていて、とても楽しそう。それを眩しく見つめる私は、身体がふわふわと浮いている感覚に苛まれた。
隣に座っているはずのお姉さまからは、物音ひとつせず、かといって、そちらを向く勇気もない私は、ただ、困惑顔で当主様を見ていることしかできない。
「”帰る”ぞ。」
そう言った当主様は、私の手を引いて立ち上がらせる。
「あ、あの、あ、」
何かの間違いじゃないの?そう思っている間にも、当主様は私の手を引き、グイグイと進む。
そんな私たちの背後で……
「烏滸がましいと、思いませんか?」
長谷川さんの、そんな冷たい声が聞こえた。振り返ろうとした私の前で、襖が閉められてしまい、私はその言葉の続きを聞くことができなかった。
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