第31話

「ククッ、プライドの高い犬だな。」



その割にはきちんと、シートの上には座らず、下に座っている。


飼い主の躾がいいのだろうかと、眠っている雫を見下ろした。



「地平の”躾”はめんどくせえが、こいつの躾になら、興味があるな。」


「玲様、言葉をお慎みください。」



思わず口走ったそれにも反応を見せた俺の”先生”に、鼻をクイと上げて見せた。


その仕草が気にくわなかったのか、地平は眉を顰める。



「どいつもこいつも。」



そう呟いた地平は、運転先の蒼羽に出せと号令した。



そんな地平に興味がないのか。あくびをしたこの犬とは気が合いそうだと笑みが漏れた。




ーーー、



沖田家が近付いた頃、雫が漸くうっすらと目を開けた。



そんなに時間はかからなかったが、30分は寝ていただろう。



「ん、んん?」



寝ぼけ目できょろきょろと周りを見る雫は、自分の状況を理解しようとしているらしい。


しかも、俺に抱かれているのすら気付いていない。



「おい、動くな。」



動きが多く、面倒くさいからそう言えば、至近距離で雫のまん丸になった目が俺を捕らえた。



少し、真っ黒なその目に、俺が映っている。



この金色の目だけが光って見えるのが、子供の頃嫌いだったが、雫の目に映るのなら、それも悪くないと思えた。

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