第30話

何より。



「俺をちゃんと上に見てるあたり、良い犬だな。」


「玲様、その発言はご自身を下げることになりますのでお慎みください。」




口うるさい地平の言葉は無視することにして、機嫌良く犬の頭を撫でた。


よく見れば、姿形はなかなか奇抜な犬だが、頭は良さそうだ。なによりこの見た目のお陰で、変な輩は雫に近付けもしないだろう。



「いいか、雫を守れ。」



その言葉に、犬がなんとなく頷いた気がした。




「……如何様にも。移動しますよ。」



地平がどうやら、俺への”躾”を諦めてくれたらしい。いちいちこいつは、『当主たるもの、』なんて口うるさい。



俺は俺だ、歴代の当主と同じなんて真っ平ごめんだ。そんなの面白くないからな。




雫を抱き上げれば、甘い香りが鼻孔を擽る。その独特の香りは、なんとなくだが、金木犀の香りのような気がした。



「好きな匂いだ。」



そう呟いて車に乗り込めば、犬が当たり前のように一緒に乗り込んできた。それを地平が止めようとしたから、手で制す。



「こいつの犬だ。こいつの居る場所には連れて行く。」



頷いた地平が引いたことを見ると、犬はツンとそっぽを向いた。それに地平が苦笑いを零して、ドアが閉められる。

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